1996年度 医療福祉建築賞 選評   病院建築No.119 1998.4)

既成敷地内の診療を継続しながら2期に分けて全面建てかえとなった施設であるが,その経緯を感じさせずに建築的に実によくまとまった形態を有している.計画内容のレベルも極めて高い.癌,心疾患,脳血管疾患,救命救急,母子医療,和漢診療,緩和ケア医療などに特性があるが,巧みに包括され,バランスのとれた県立総合病院として機能している.廊下動線の軸が明快で,ゾーニングがわかりやすい.また将来への対応が可能な形であり,柔軟でもある.

 

中央診療棟と外来診療棟との間にある吹き抜けのホールは,病院の中の公園というイメージ通り,緑豊かなロビィとなっていた.サポートシステムは潤滑であり,物流・情報化の計画は良かった.管理運営上も好評である.

 

病棟を左手に眺め,診療棟・中央ホールを正面に据えた玄関アプローチは,前面のガラス壁面の立ち上がりと壁体の扱いに優れた美しさを見せる.内部のささいな造形にも神経が行き届いている印象を受けた.

 

(説明1) 富山県立中央病院   病院建築 No.112 199607  佐藤総合計画

     

■病院の概要
 富山県立中央病院は昭和26年の開設以来,富山県の中心的病院として県民に親しまれてきた.今回施設の老朽化を改善すること,また「日本一の健康県つくり」の中心的病院として機能することを目指し,施設の全面建替が行われた.当病院は県立唯一の総合病院として,県域全域にわたる基幹総合病院として,癌,心疾患,脳血管疾患を克服するセンター病院として,また救命救急・母子医療・和漢診療の充実した病院として,急性期主体の病院として位置づけられている.
敷地は富山市の中心部からやや離れた市街地にあり,既存敷地内での,病院機能を活かしたままでの全面建替となった.大きく1期,2期に分かれ,設計競技開始から完成まで8年を超える長期間のプロジェクトとなった.

■全体計画の概要

1.棟構成
 工事中の病院の稼動に無理がないこととともに,全体竣工時に病院として整合性のとれたプランとすることに全体構成の重点を置いた.1期・2期とも,各々約70~80M角の工事エリアに新築をし,完成後それぞれに緊密な関係を持たせることを目指した.新築部を中央病棟(1期)・中央診療棟・外来診療棟(2期)と大きく3つの棟に分け,建替計画を単純にしている.特に機能的に一体としたい中央病棟・中央診療棟は近接させて配置している.
他に設備棟,霊安解剖棟,ゴミ処理棟を別棟として新設している.また「軸」を設定し,これらの3つの棟,および既存施設を関連づけた.

  • 施設軸(ホスピタルストリート):敷地全体を南北に通る主通路.一部は病院の主廊下となる.
  • 主廊下(サブストリート):中央診療棟・外来診療棟の主廊下.施設軸に直交して配置.主廊下とはT字型に交わるようにし,十字路を避けた、迷わない計画とした.
  • 縦軸(中央エレベータ):施設の垂直方向においた軸.
    外来診療部門には別にエスカレータ,エレベータを設けている.

2.平面・断面構成

  • 中央エレベータを中心にL型になった2つの病棟,および中央診療棟を3方向に展開した平面型とし,人・物の動きの集約された平面構成を目指した.
  • 中央診療棟,外来診療棟の間に吹き抜けのあるホール「ふれあいプラザ」を設け,外来患者にとって常に自分の位置の確認ができる平面構成とした.
  • 各部門内の平面は人員を分散配置させないこと,夜間体制を考慮したプランを心がけた.
  • 中央病棟は地上10階,中央・外来診療棟は地上5階とし,各々地下1階としている.地階は棟別ではなく一体的に扱っている.
  • 地階の上部に設備スペースをとり,設備系の横引き,搬 送設備の展開スペースに当てている.

3.アプローチ
 主アプローチ(入院・外来),救急,サービスのアプローチを3つに分け,交差しない計画とした.

  • 主アプローチ:歩行者・一般車・バスのアプローチとし た.アプローチに沿って小公園,食堂・売店・喫茶を配置し,「商店通り」とした.病院にありがちな緊張感を和らげる導入空間づくりを目指した.
  • 外来・病棟出入口は近接して設けた.病棟出入口は時間外出入口としても利用している.

■各部門の概要

1.病棟
 新築部は720床,他に別棟に精神科病棟(既存改修)80床がある.病棟階は1フロア2単位とし,2~9階に配置した.2つの病棟は工事エリア収まるL型配置とし,全ての病室からの眺望を考慮した.また病棟内でのPPC的運営を考慮し,重症病室をL型の内側でナースステーションからの観察が容易な位置に置いた.またこの部分に通過交通のない変則複廊下とした.

 

ナースステーションは看護単位入り口に設け,病棟出入りの管理の容易さ,他部門との連絡のしやすさをはかった.またステーションの平面的な偏りを考慮し,病棟奥にサブステーションを設けた.ここでは処置準備,記録,患者の応対等を考えている.
 便所は面積上の制約から各室設置とはならなかったが,廊下側から使用できる分散配置とした.

[部門配置上の留意点]

  • 4階にICU・CCU(30床)を配置し,中央診療棟4 階の手術部門と清潔区域内で接続し,患者移送ができるようにした.
  • 緩和ケア15床はあくまで病棟の一部であるという考えから,9階に病棟内の一部として配置した.人間ドック10床と合わせた看護単位としている.
  • 2階には産科・小児科病棟を配置し,L型の中央に周産期部門として分娩・新生児・NICU等をまとめて配置している.

2.外来診療部門 外来診療部門は外来診療棟1~3階に配置し,エレベータ・エスカレータで結ぶ計画とした.大きく5つのブロックに分け,診療科の専門化・総合化に対応しやすい計画としている.
内科系・外科系・小児・産婦人科等の3つブロックでは,中央に処置・点滴主体のブロック処置を設け,周囲の外気に面した部分に診察室を配置した.

  • 外来診療棟4階に中央病歴を配置し,カルテの搬送経路の短縮を図った.予約カルテは人手,それ以外は中型搬 送設備,またはカルテシュータを使用する.
  • 救急部門は中央病棟1階に配置し,4階ICU・手術部 門とエレベータを介して近い位置に置いた.

3.中央診療部門
 外来診療部門に相対する形で,中央診療棟1階に総合画像診断(放射線・内視鏡・超音波診断),2階に生理機能検査,3階に臨床検査部門を設けた.
 中央診療棟4階の手術部門は供給ホール型のプランとし,外周廊下は一般清潔区域とした.供給ホールおよび使用済み器材室は,清汚にゾーニングされた専用搬送機で地階中央材料部門と直結している.
 また手術部門では天井懸架顕微鏡などの振動対策として構造方式,設備機器・配管類の防振を含めた全体的な計画とし,施工時にも十分な注意を払った.

  • 放射線治療部門は導入時期の関係で中央病棟地階(1期)に配置した.機器の搬出入のドライエリアを設けたが,待機の患者のための明るい中庭になっている.
  • 中央病棟1階にはアンギオ・CT部門を救急部門に隣接して配置しているが,総合画像診断とも近い位置とした.
  • 中央診療棟1階に中央採液室を設け,外来業務の合理化を図った.3階臨床検査部門とは専用検体搬送機で結ばれている.
  • RI部門は検査関連と治療室をまとめて2階に配置した.
  • 3階病理検査部門と4階手術室は専用搬送機で結び,検体搬送の迅速化を図った.
  • 中央診療棟5階に急性期を主体としたリハビリテーション部門を配置し,病棟5階整形外科と平面的に移動できる配置とした.

4.供給部門
 地階を供給フロアとしてまとめた.アプローチは区分し,サービス車専用の通路とスロープを設けた.1期では栄養管理部門,2期では物品管理センター(中央倉庫・中央材料・医療機器管理・ベッドセンター),薬剤部を置いている.

5.管理・関連部門
外来診療棟4~5階に医局・管理部門を配置した他,医療交流棟にコンピュータ部門・資料室等を,厚生棟に更衣・フィルム・カルテ庫(インアクティブ)・教養室等を配置した.両棟とも既存改修である.

■設計上の方針

  • [成長]増築:施設軸または主廊下の延長上に将来の増築が可能な平面とした.施設軸下部には予備ピットを設けるなど,設備的な対応も行った.
  • [変化]改修:中央診療棟・外来診療棟では,将来の変化 にフレキシブルに対応が可能なよう,耐震壁を内部に取り込まない平面とした.中央診療棟では約60M×27Mの広さである.
  • フレキシビリティのある工法の採用:壁は移設しやすい乾式の壁やスチールパーテションとした他,一部には床にフリーアクセスフロアを採用した.
  • 将来の部門の拡大を考慮し,各所に特別な設備の不要な 会議室や倉庫を設け,将来対応スペースとしている.
    (中央診療棟2階の会議室,手術部内控室等)

1.成長・変化に対応しやすい病院
 将来の医療技術,医療動向の変化に対応しやすい病院であること,また設計の自由度を高めることを目指した.

  • [成長]増築:施設軸または主廊下の延長上に将来の増築が可能な平面とした.施設軸下部には予備ピットを設けるなど,設備的な対応も行った.
  • [変化]改修:中央診療棟・外来診療棟では,将来の変化 にフレキシブルに対応が可能なよう,耐震壁を内部に取り込まない平面とした.中央診療棟では約60M×27Mの広さである.
  • フレキシビリティのある工法の採用:壁は移設しやすい乾式の壁やスチールパーテションとした他,一部には床にフリーアクセスフロアを採用した.
  • 将来の部門の拡大を考慮し,各所に特別な設備の不要な 会議室や倉庫を設け,将来対応スペースとしている.
    (中央診療棟2階の会議室,手術部内控室等)

2.防災性能の高い病院
 法的な建築・設備条件を整備するのはもちろん,病院の特殊性に沿った現実的な防災計画を心がけた.

  • 分かりやすく単純な平面・避難経路を心がけた.
  • 患者の居住部分である病棟では,1フロアの防火区画を大きく3つに分け,各々への水平避難が可能とした.
  • ICU・手術室などでは避難の確保と同時に防火区画を別に設け,安全性を高めた.

3.快適な病院

  • 病棟は「住居・家庭」をモチーフに,家具も含め「木」を要所に使った計画としている.廊下の壁は絵画の展示を考慮し押さえた色調としている.
  • 外来・中央診療廻りは案内性・部門識別の意味から,建築・家具を含めた総合的な色彩計画とした.
  • 滑らない床,段差のない床,突出部のない細部など,日常の事故を避けうるデテールを心がけた.
  • 「ふれあいプラザ」は病院のシンボル空間として設けている.「公園の中の病院,病院の中の公園」を主題にしたゆとりのある空間とした.東側中庭と一体となった,樹木を配置した外部的な構成をとっている.このホールを使って定期的に「コンサート」が行われている.
  • • 仕上は全体に清掃のしやすい材料とし,また場所に応じて壁面の清拭・消毒が可能な仕上材とした.床清掃については中央集塵設備を導入している.

4.人・物・情報の流れのデザインされた病院
 情報(医療情報・オーダー情報等)や物品(管理・搬送等)に関する諸問題に関しては,運営を建築に反映する姿勢を心がけると同時に,将来の運営方法の変化も視野に入れながら計画を進めた.

  • 情報:オーダリング・外来予約制の導入など,情報化を進めた病院として計画している.
  • 物品:中型搬送設備を全面的に導入している.夜間や臨時搬送での使用の他,定期搬送にも一部使用しうる機種の選定を行った.

(説明2) 富山県立中央病院   松ヶ崎建築会 1996.10

富山県立中央病院は800床の規模を持つ富山県域の基幹総合病院である.急性期主体の病院として「高機能であると同時に患者本位」の病院であることを求められた.計画は病院機能を活かしたままの既存敷地内での全面建替えであり,設計競技開始から完成まで8年を超える長期間のプロジェクトとなった.

全体は大きく3つのボックス(中央病棟・中央診療棟・外来診療棟)といくつかの縦横に置いた軸(ストリート・エレベータ群)による単純な構成としているが,これは建替計画と対応している.各階はエレベータ群を中心に半径90m内に主要施設が収まる集約されたプランとした.また中央診療棟と外来診療棟の間にアトリウムを設け,病院のシンボル(病院の中の公園)とした.

設計要旨には成長と変化,安全性,快適性などをあげているが,「人・物・情報の流れのデザインされた病院」のフレーズが主旨を最もよく表現している.つまりこの病院を成り立たせているのは,医療・看護の追求であり,医療情報のネットワークの構築であり,物品管理・搬送のシステム化への動向である.この病院がもつべきプログラムを「流れ」として捉え,建築に置き換えていくことを基本姿勢としている.

この建築はこの施設を使用して行われるであろう医療・看護の結果であり,空間はその目的に添って構成されている.結果としての形態が,都市の穏やかな背景になればよいと考えている.

□設計プロセス
設計競技時点で原型を作成したのは1週間程度であったと思うが,現実の建築としてまとめるのに8年の時間を要した.技術的な検討や作業を別にすれば,大部分を設計内容の了解を得ることに費やしている.

主題となったのは医療と建築の関係性の追求であった.つまり医療が建築に求めるものと建築が医療に及ぼす影響との調整に時間を費やしたといってよい.

示された条件に意義をとなえる、またはその意味を問う、というのは「設計事務所」の立場を逸脱しているのかもしれない.ただ現代の「病院」は、単に条件を建築化していくだけでは納まらないほどに複雑化・多様化している.
あらたな「条件」づくりのメカニズムが求められている.

マンダム本社+R&D棟   日経オフィス草稿 1994

概要

マンダム発祥の地である大阪市中央区十二軒町に、本社と調査・開発の中核機能をもつR&D(research & development)棟の建設を行った。 敷地には中央研究所が既存建物としてあったため、機能を活かしながらの2期にわたる工事となった。 「マンダムらしさ」の追求と、旧い大阪の面影をとどめる地域にどう建築するかが設計の大きなポイントとなった。

全体構成

本社機能と調査・開発機能は一体であるという明確な意思が当初から発注者にあった。建築はその意思を反映し、本社+R&D棟をひとつの“パッケージ”としてまとめ、社のシンボルとなる空間(アトリウム)を別のボリュームとして付加した。

  • 本社+R&Dは1期、アトリウム・食堂・地下駐車場増築部を2期工事とした。
  • 面積効率を高めるため、基準階は極力シンプルなプランとした。
  • 形態は“シンプルで清潔”という発注者のイメージを実現するよう努力した。

ニューオフィスについて

“ニューオフィス”をことさら意識することは避けた。発注者の意図を建築に反映する中で、結果として“ニューオフィス”的になったと考えている。 特に各フロアのゾーニング・レイアウトについては充分な打合を経たと思っている。

雑感

建設チームの中には商品開発を手がけてこられた方も何人かおられた。設計打合せの中で商品開発的なアイデアが出てくるのは刺激的であった。そして何よりも“自分たちの本社をつくる”という熱意が伝わってきた。 設計者としては貴重な体験をさせて頂いたと思っている。