既成敷地内の診療を継続しながら2期に分けて全面建てかえとなった施設であるが,その経緯を感じさせずに建築的に実によくまとまった形態を有している.計画内容のレベルも極めて高い.癌,心疾患,脳血管疾患,救命救急,母子医療,和漢診療,緩和ケア医療などに特性があるが,巧みに包括され,バランスのとれた県立総合病院として機能している.廊下動線の軸が明快で,ゾーニングがわかりやすい.また将来への対応が可能な形であり,柔軟でもある.
中央診療棟と外来診療棟との間にある吹き抜けのホールは,病院の中の公園というイメージ通り,緑豊かなロビィとなっていた.サポートシステムは潤滑であり,物流・情報化の計画は良かった.管理運営上も好評である.
病棟を左手に眺め,診療棟・中央ホールを正面に据えた玄関アプローチは,前面のガラス壁面の立ち上がりと壁体の扱いに優れた美しさを見せる.内部のささいな造形にも神経が行き届いている印象を受けた.
■病院の概要
富山県立中央病院は昭和26年の開設以来,富山県の中心的病院として県民に親しまれてきた.今回施設の老朽化を改善すること,また「日本一の健康県つくり」の中心的病院として機能することを目指し,施設の全面建替が行われた.当病院は県立唯一の総合病院として,県域全域にわたる基幹総合病院として,癌,心疾患,脳血管疾患を克服するセンター病院として,また救命救急・母子医療・和漢診療の充実した病院として,急性期主体の病院として位置づけられている.
敷地は富山市の中心部からやや離れた市街地にあり,既存敷地内での,病院機能を活かしたままでの全面建替となった.大きく1期,2期に分かれ,設計競技開始から完成まで8年を超える長期間のプロジェクトとなった.
■全体計画の概要
1.棟構成
工事中の病院の稼動に無理がないこととともに,全体竣工時に病院として整合性のとれたプランとすることに全体構成の重点を置いた.1期・2期とも,各々約70~80M角の工事エリアに新築をし,完成後それぞれに緊密な関係を持たせることを目指した.新築部を中央病棟(1期)・中央診療棟・外来診療棟(2期)と大きく3つの棟に分け,建替計画を単純にしている.特に機能的に一体としたい中央病棟・中央診療棟は近接させて配置している.
他に設備棟,霊安解剖棟,ゴミ処理棟を別棟として新設している.また「軸」を設定し,これらの3つの棟,および既存施設を関連づけた.
2.平面・断面構成
3.アプローチ
主アプローチ(入院・外来),救急,サービスのアプローチを3つに分け,交差しない計画とした.
■各部門の概要
1.病棟
新築部は720床,他に別棟に精神科病棟(既存改修)80床がある.病棟階は1フロア2単位とし,2~9階に配置した.2つの病棟は工事エリア収まるL型配置とし,全ての病室からの眺望を考慮した.また病棟内でのPPC的運営を考慮し,重症病室をL型の内側でナースステーションからの観察が容易な位置に置いた.またこの部分に通過交通のない変則複廊下とした.
ナースステーションは看護単位入り口に設け,病棟出入りの管理の容易さ,他部門との連絡のしやすさをはかった.またステーションの平面的な偏りを考慮し,病棟奥にサブステーションを設けた.ここでは処置準備,記録,患者の応対等を考えている.
便所は面積上の制約から各室設置とはならなかったが,廊下側から使用できる分散配置とした.
[部門配置上の留意点]
2.外来診療部門
外来診療部門は外来診療棟1~3階に配置し,エレベータ・エスカレータで結ぶ計画とした.大きく5つのブロックに分け,診療科の専門化・総合化に対応しやすい計画としている.
内科系・外科系・小児・産婦人科等の3つブロックでは,中央に処置・点滴主体のブロック処置を設け,周囲の外気に面した部分に診察室を配置した.
3.中央診療部門
外来診療部門に相対する形で,中央診療棟1階に総合画像診断(放射線・内視鏡・超音波診断),2階に生理機能検査,3階に臨床検査部門を設けた.
中央診療棟4階の手術部門は供給ホール型のプランとし,外周廊下は一般清潔区域とした.供給ホールおよび使用済み器材室は,清汚にゾーニングされた専用搬送機で地階中央材料部門と直結している.
また手術部門では天井懸架顕微鏡などの振動対策として構造方式,設備機器・配管類の防振を含めた全体的な計画とし,施工時にも十分な注意を払った.
4.供給部門
地階を供給フロアとしてまとめた.アプローチは区分し,サービス車専用の通路とスロープを設けた.1期では栄養管理部門,2期では物品管理センター(中央倉庫・中央材料・医療機器管理・ベッドセンター),薬剤部を置いている.
5.管理・関連部門
外来診療棟4~5階に医局・管理部門を配置した他,医療交流棟にコンピュータ部門・資料室等を,厚生棟に更衣・フィルム・カルテ庫(インアクティブ)・教養室等を配置した.両棟とも既存改修である.
■設計上の方針
1.成長・変化に対応しやすい病院
将来の医療技術,医療動向の変化に対応しやすい病院であること,また設計の自由度を高めることを目指した.
2.防災性能の高い病院
法的な建築・設備条件を整備するのはもちろん,病院の特殊性に沿った現実的な防災計画を心がけた.
3.快適な病院
4.人・物・情報の流れのデザインされた病院
情報(医療情報・オーダー情報等)や物品(管理・搬送等)に関する諸問題に関しては,運営を建築に反映する姿勢を心がけると同時に,将来の運営方法の変化も視野に入れながら計画を進めた.
富山県立中央病院は800床の規模を持つ富山県域の基幹総合病院である.急性期主体の病院として「高機能であると同時に患者本位」の病院であることを求められた.計画は病院機能を活かしたままの既存敷地内での全面建替えであり,設計競技開始から完成まで8年を超える長期間のプロジェクトとなった.
全体は大きく3つのボックス(中央病棟・中央診療棟・外来診療棟)といくつかの縦横に置いた軸(ストリート・エレベータ群)による単純な構成としているが,これは建替計画と対応している.各階はエレベータ群を中心に半径90m内に主要施設が収まる集約されたプランとした.また中央診療棟と外来診療棟の間にアトリウムを設け,病院のシンボル(病院の中の公園)とした.
設計要旨には成長と変化,安全性,快適性などをあげているが,「人・物・情報の流れのデザインされた病院」のフレーズが主旨を最もよく表現している.つまりこの病院を成り立たせているのは,医療・看護の追求であり,医療情報のネットワークの構築であり,物品管理・搬送のシステム化への動向である.この病院がもつべきプログラムを「流れ」として捉え,建築に置き換えていくことを基本姿勢としている.
この建築はこの施設を使用して行われるであろう医療・看護の結果であり,空間はその目的に添って構成されている.結果としての形態が,都市の穏やかな背景になればよいと考えている.
□設計プロセス
設計競技時点で原型を作成したのは1週間程度であったと思うが,現実の建築としてまとめるのに8年の時間を要した.技術的な検討や作業を別にすれば,大部分を設計内容の了解を得ることに費やしている.
主題となったのは医療と建築の関係性の追求であった.つまり医療が建築に求めるものと建築が医療に及ぼす影響との調整に時間を費やしたといってよい.
示された条件に意義をとなえる、またはその意味を問う、というのは「設計事務所」の立場を逸脱しているのかもしれない.ただ現代の「病院」は、単に条件を建築化していくだけでは納まらないほどに複雑化・多様化している.
あらたな「条件」づくりのメカニズムが求められている.
概要
マンダム発祥の地である大阪市中央区十二軒町に、本社と調査・開発の中核機能をもつR&D(research & development)棟の建設を行った。 敷地には中央研究所が既存建物としてあったため、機能を活かしながらの2期にわたる工事となった。 「マンダムらしさ」の追求と、旧い大阪の面影をとどめる地域にどう建築するかが設計の大きなポイントとなった。
全体構成
本社機能と調査・開発機能は一体であるという明確な意思が当初から発注者にあった。建築はその意思を反映し、本社+R&D棟をひとつの“パッケージ”としてまとめ、社のシンボルとなる空間(アトリウム)を別のボリュームとして付加した。
ニューオフィスについて
“ニューオフィス”をことさら意識することは避けた。発注者の意図を建築に反映する中で、結果として“ニューオフィス”的になったと考えている。 特に各フロアのゾーニング・レイアウトについては充分な打合を経たと思っている。
雑感
建設チームの中には商品開発を手がけてこられた方も何人かおられた。設計打合せの中で商品開発的なアイデアが出てくるのは刺激的であった。そして何よりも“自分たちの本社をつくる”という熱意が伝わってきた。 設計者としては貴重な体験をさせて頂いたと思っている。