病院チェックリスト 参考

a.工事途中の総合図検討について

1/50プランでは機器レイアウトを設定し、設備位置を決定することが主な作業内容になります。レイアウトによっては壁や開口(扉・窓)位置が1/100プランから変更になることもあります。レイアウトを決めるポイントは以下の点になるかと思います。

  1. 人(患者・スタッフ等)の流れを押さえる。
  2. 患者の動きを押さえる。どのような患者の誘導方法をとるか、また何処で待たせ、何処で医療行為を行うのか。 職種ごとのスタッフ数、スタッフの配置は設定されているか。スタッフの動きを押さえる。何処で誰が受付し、誰が呼び出すのか、など。

  3. もの(物品・搬出物など)の流れを押さえる。
  4. まずその室または部門にどのようなもの(機器・物品など)が必要なのか。

    • その部門の物品供給および請求はどういうかたちで行うのか。
       また定期・臨時・緊急の搬送は各々誰がどのように行うのか。
    • 物品の保管量は決めているか。保管方式はどうするのか。
    • 物品にクリーン・ソイルの区別をつけるのか。つけるのであればどのようなルートを設定するのか。

  5. 情報の流れを押さえる。
    • 各々の情報がどのような媒体となるのか。またどの場所で情報の取り出し・書き込みが必要になるのか。
    • 伝票など紙媒体のものは作業の中で必要となるのか。必要であれば、誰が記入し、搬送し、どう保管するかの検討が必要。コンピュータダウン時の対応はできているか。

  6. 時間外の対応は考えられているか。
  7. 夜間・休日など、スタッフの少ない時間帯での業務は想定されているか。またその時にも、業務が可能な建築・設備・機器レイアウトとなっているか。夜間・休日など、その部分を使用しない時の空調方式は考えられているか。(主に設計サイドの問題。)

  8. 機器との調整
  9. 工事途中の設備決定の最大の要素は機器が設定されていることですが、実際には機器の発注条件に建築・設備の状況を前提としてもらう以外、方法はないと思います。(多少メーカーからのクレームはあるでしょうが)また建築・設備をどのような条件設定にしておくかということ、レイアウト上どのあたりに余裕を持たしておくかという点は、設計サイドの「読み」になります。


b.建築の細部・仕上げについて

病院のディテール(細部)は「清潔」「安全」という言葉でくくられると思います。部位が多くまとめ切れませんが、要点は以下のようになると思います。

  1. 掃除のしやすいディテール
    1. 清掃のしやすい床。清掃のしやすい機器。ただし床材を巻き上げた幅木は施工上大変手間がかかるため、すべての部位で行うのは工期上・予算上、実際には難しいと思います。清潔区域・汚染区域に限るなど、まず原則を立てることが必要だと思います。
    2. 埃たまりのないディテール。また埃がたまれば目に付くディテール。
    3. 清掃方法に対応した内装材。
      病院における清掃方法、消毒方法は現段階では流動的ですが、基準を決め内装材を選択する必要があります。例えば消毒薬に弱い壁材などもあるので注意が必要です。

  2. 患者にとって「安全」なディテール<
    1. 滑りにくい床。また場所によっては転倒しても安全な床。
    2. しっかりと握りこめる手すり。指をはさみにくい扉など。
    3. 突起物、尖ったところのないディテール。

    いずれも当然のようですが、えてして実際の工事では欠落することがあります。設計者の配慮がどこまで行き届くかによります。


  3. 扉の標準化
    1. 扉の材質、閉鎖方法(自動的に閉まる、など)は法規制によるところが大きいのですが、実際の運用にあった使用法を考える必要があります。
    2. 扉の機能としては、音を遮る、視線を遮る、空気を遮るという点がありますが、その各々の性能を押さえる必要があります。
      ただいずれも予算の制約があるため、どこをどの程度の性能にするか、優先順位を決めることが必要です。
      • 遮音性能: 一般的か、特に音に配慮したいか、など。
      • 視線: 窓なし、腰から上の大きな窓、向こうに人が立てば分かる程度の窓など。
        また窓付きの場合はガラスが透明か、型ガラスか、など。
      • 空気: 空気感染対応など空気を遮蔽する必要があるかどうか、など。(空調の方式とも対応します。)
    3. レバー、錠、自閉装置などの建具金物を決めていくことも必要です。
      • 扉の握りの形状。レバー、握り棒、押し板など。
      • 消音が特に必要な場所は、消音式の自閉装置なども必要です。
      • ワゴンが頻繁に出入りするところなどは蹴り板(扉下部のガード)も必要です。
      • 自動ドアの開閉方法も原則を決める必要があります。診療部門ではタッチ式は使いにくいと思います。

      施錠範囲、マスターキーの設定などは別に設計サイドから提案があると思います。


c.流し台・家具の製作について

病院の流し・家具は使い方が多様で、清潔を保つことも重要な要素となるため、一般建築の家具と異なる部分が多いのが特徴です。

  1. 流しについて
    1. 不潔になりそうなところ、物を収納しておくだけのところは作らないのが賢明でしょう。
      作業流しでの台下扉の廃止(オープンにする)、手の届かない場所に天袋を設けない、などの方法が必要でしょう。
    2. 水栓は壁から出ているタイプと台上から出ているタイプとがあります。壁から出ているタイプは流し台の奥行きが12~15cm程度狭くなることと、目の高さあたりに段ができてしまうため、水栓廻りの清掃はやや面倒ですが、台上から水栓の出ているタイプをお勧めします。

  2. 物品収納家具について
    1. 「1/50プランについて」で述べたように、物品の量・保管方法によって家具の造り方は変わります。保管・供給方式とあわせた計画が必要となります。
    2. 物品収納の一部をワゴンにすることも考えられます。作業時に手元にもってこれること、ワゴン収納場所の清掃が簡単な点が上げられます。ただ工事区分は備品になります。

  3. 患者廻り家具について
  4. 病室廻りなど、患者私物の収納にあたっては細かな検討をしてください。患者の自宅がどこにあるか(診療圏)によっても患者私物の量は変わります。

  5. 造り付カウンター・窓口等
    1. そのカウンターでどのような業務を行うのかが明確にならないと設計できません。
      • カウンターに何人のスタッフが張り付くか。また夜間は閉鎖するのか。
      • カウンターでの主業務は何か。応対か、入力(または記録)か。
      • カウンターでの応対姿勢は立ってか座ってか。また患者側の姿勢は。
      • カウンター廻りに必要な設備は何か。
    2. カウンターでの業務は運営により変更になることがあります。当初の設定を充分に行うことは最低限必要ですが、将来へ向けての対応を考えておくことも必要です。将来設置の必要がありそうな箇所にあらかじめ設けておくこと、またカウンター内配線が容易に取り替えられる構造にしておくことなどの配慮が必要です。(いづれも設計者の配慮によります。)
    3. カウンターは「サイン」の機能も持ちます。視覚的な効果も含めて設計する必要があります。(設計サイドの問題ですが)

d.サイン・病院の案内性について

  1. 病院サインの特殊性
    1. 1点から他点への誘導ではなく、流れが輻輳する。
      • 駅: 改札からホームへ 等(一方向)
      • 庁舎・オフィスビル: エントランスから○○課へ 等(一方向)
      • 病院: 外来から放射線へ、検査から放射線へ 等(多方向)
    2. 患者応対・呼び込み・待機など、サインが細かな運用と連動する。
    3. 利用者が患者である。心身とも不安をもった人の誘導・案内が前提となる。

  2. 病院サインの実際
  3. 結論から先に言えば、病院のサインは補助にしかならない。
    特に利用者が患者であることを考えると、院内の案内は職員が対応するのが原則である。有効な「補助」とするには、次の項目が挙げられる。

    1. オリエンテーション計画の一環としてのサイン計画
      • 最も案内しやすいのは、「あの吹き抜けの向こう側」とか「あの広い通りの右側」など、建築的に特徴のある部分を目印にして、そこからたどれるようになっていること。 建築も含めたオリエンテーション計画の一環としてサインを計画することが必要である。

    2. 番地制
      • 行き先を番地にしてしまうのも案内はしやすい。「放射線診断へ行ってください。」よりも「8番受付(または2Aなど)へ行ってください。」の方が分かりやすい。[放射線診断」と「放射線治療」を間違う人もいる。また誘導表示の限られた盤面に、長い大きな文字は入らない。
    3. 案内票との連動
      • 案内票とサインで使用する平面(マップ)を同じものにし、案内票を見てもサインを見ても同じ絵が描いてある、というのは分かりやすい。

  4. 病院サインの留意点
    1. 誘導表示は目の高さ(床+1,500mm程度)が最も分かりやすいが、一部天井吊表示も必要となる。サインは内照式よりも外部から照明をあてる方が安価で改変が行いやすい。いずれにせよ照明と連動するため、工事の早い時期での位置決定が必要。

    2. 定点表示(ここがその場所です、という表示)は、サインだけではなくカウンターのデザインやインテリアも含め、建築全体が目印となった分かりやすさが必要。必ず人のいる場所に導く必要があるのは言うまでもない。

    3. 多すぎるサインの情報量は結局サインをわかりにくくする。表示内容の整理は不可欠。

    4. 特に公共建築の場合、「サインが見にくい」というクレームは必ず出る。その都度の対応は表示内容のバランスを崩し、ますますわかりにくくする。「病院はスタッフが案内する」を原点に、対応してほしい。

e.病院設計・建設フロー


スケジュールの概要 項目の内容が一時に決まることはない。内容によっては工事進行中に決まる内容もある。各項目の設定すべき時期については省略している。 なお一般的な病院の設計・建設の時期を下に示す。
 構想 全体構想をまとめる期間。(本来は施設側の観点で提案できるコンサルタントが必要。)
 基本設計 [前半] 施設全体の規模・部門配置が決定される。
[後半] 室数・室の規模、配置が決定される。
 実施設計 [前半] 各室内レイアウト、設備条件などが決定される。
[後半] ハードとしての設計をまとめる時期。基本的に発注者との打合はない。
 監理/工事 設計条件の確認、導入機器の決定など。他に色彩の決定などもこの時期に行われる。病院としては運用の詳細を決定する。